menu

農産製造学分野

農産製造学分野担当教員

教授

谷 史人
タンパク質や多糖類の高分子化学、免疫生物学をベースに「消化管の生理機能の向上にかかわる食品加工や食品化学」について研究しています。

助教

小林 敬
加圧状態で液体を保った水である亜臨界水は、高い反応性を有しています。これを利用して、新規食品加工法を確立することを目指して、「亜臨界水を用いた食品加工残渣などの有効利用」について研究しています。また、食品の加工や保存には一定温度での保温・保冷が必要になります。その際のエネルギー消費量を低減し、持続可能な社会を実現するために「生分解性・可食性蓄熱マイクロカプセルの開発」についても、並行して研究しています。

小川 剛伸
種々の食情報が五感(美味しさ)を支配する機構の解明、バイオミメティクスに基づく新規食品の開発など、食品工学・食品化学をベースとした研究に取り組んでいます。

研究紹介

当分野では、生物学、化学、工学の融合した視点から、生物としてのヒトにとって最も好ましい食品とはどのようなものであるか?そのような食品をどのように設計・製造すればよいのか?をモットーに研究しています。食品のもつあらゆる情報が、脳での知覚と消化管での受容を合わせた包括的なかたちとしてどのように感知されるのか、そのような情報を食品という構造体にどのように組み入れていくのかということに焦点を当てています。

研究テーマは大きく6つに分けることができます。

1.消化管内センシングの生物学

 食塊が、咀嚼・嚥下後、食道から大腸に至るまで消化管内でどのように流動し、多数の栄養素がどのように相互作用しながら消化・吸収されていくのか、その過程の詳細については不明です。我々は、マウスに給餌する食物繊維の径をより細くするだけで、脂肪蓄積が軽減し腸内細菌叢が劇的に変化する現象を見出しました。食品成分の組成のみならず形状や物性が、栄養素の分布や腸管細胞の応答に影響することに着目して、腸管内における栄養素の経時的・空間依存的な分布を質量分析イメージングなどの新しい手法で解析し、同時に、腸管細胞が消化物の物性をどのように感知し、栄養素の代謝を制御するかについて解析しようとしています。器官に類似した組織体のオルガノイドを駆使して、食品、特に乳の粘膜調節機能を明らかにすることや、消化物の流動特性への応答や消化吸収を可視化計測できる測定系の開発を試みています。これらの成果を通して、栄養素や薬物の送達効率を高めるために最適な構造や物性をもつ食品のデザインと開発につなげられることを期待しています。
・ナノテクノロジーによる食物繊維の機能性改良:脂質の吸収を抑えるセルロースナノファイバーの新規機能性を食品へ利用することを目指しています。
・オルガノイドを用いた乳の粘膜調節機能の解明:腸管内の外的因子に対して生体防御にかかわる受容機構を解明し、アレルギーや糖尿病などの予防につなげることを目指しています。
・メカノストレスに対する消化管の細胞機能の解析:ずり応力や伸展刺激に伴う消化管上皮細胞の機能への影響を解明することを目指しています。

2.タンパク質の構造と呈味発現機構の解明

 タンパク質工学、構造生物学、細胞生物学の手法を用いて、タンパク質の甘味発現機構の解明、味覚受容体を発現する培養細胞を用いて、苦味抑制等の味質改善機構を解明し、新規な食品素材としての応用利用を目指しています。

3.亜臨界水を用いた希少糖の合成

 圧力をかけることで100℃以上に加熱した水の中では、特殊な反応が進行します。たとえば、普通の糖が反応して希少糖を製造することができ、その最適な条件に関して検討しています。

4.食品保存を指向した可食性蓄熱マイクロカプセルの作製

 特定の融点・凝固点を有する油脂をタンパク質や多糖などで包括すると、内部に油脂を包含したマイクロカプセルが出来ます。このマイクロカプセルは特定の温度において周囲の温度変化を抑制する「蓄熱」作用を示します。種々の油脂や包括物質を用いて、食品の保冷などの様々な状況で使用できる可食性蓄熱マイクロカプセルの作製条件を検討しています。

5.食品の内部構造が食感と心地良さを決定する機構の解明

 グルテンは人類が自然界からはじめて単離したモニュメント的なタンパク質であり、麺などの食感を決める重要な物質です。しかし、グルテンを構成するアミノ酸の特異性から、これまでその詳細構造の解析は極めて困難でした。小川らは、麺などの食品をまるごと透明にするSoROCS試薬を開発し、蛍光イメージング法と組み合わせることで、グルテンの立体構造をはじめて解明しました。さらに、人工知能を用いることで、食感を生み出す特有の立体構造を推定する手法を提案しています。このような研究に加え、食品が有する多種多様な食感の見える化法の開発や、食感や香りに起因する心地良さを生体シグナルから推定する新たな品質評価法の開発などを通して、食品が美味しさを生み出すメカニズムの解明に取り組んでいます。そして、これらの成果を基に、論理的に食品の品質を改良するための基礎の確立を目指しています。

6.バイオミメティクスに基づく新規食品の開発

 私たちヒトを含む生体は、自然界で合理的に機能を発揮できるように、長い時間をかけて構造や物質を進化させてきました。このような生体が有する巧みな機構を模倣するというバイオミメティクスの観点から、新たな食品の開発に取り組んでいます。これまでに、ある生体分子を用いることで、卵白食品の熱安定性を改変できることを明らかにしています。


以上